第29章 別れと髪と、湯と理性と
怪我を圧迫しないように、うつ伏せの体勢でシカマルに話し相手になってもらう。
ミナトとカカシは、セツナに会う事もせず帰って行った。私達に言付けを残して。
『いやー、チャクラを使った治療って凄いね。傷口も塞がって、抜糸もいらないなんて…』
「そうか?普通だろ…
見た目は綺麗になってても、内臓は確実に損傷してるし。無理矢理に治癒力を前借りしてるわけだから、確実に体力も落ちてるぞ」
なるほど。そういう仕組みなのか。
特に私にはチャクラが無い為、チャクラを分けてもらって体力を回復をする事も出来ない。
『シカマル君は、怪我とかしなかった?』
「してねえ。
敵は全部カカシ先生が倒してたし。俺は怪我どころかチャクラの消耗さえしてねえよ」
予想はしていたが、カカシは私を助ける為に今回もたくさん人の命を奪ったのだろう。
この世界の、忍ではない一般人は。こういう事をどう捉えているのだろうか。
彼等が命のやり取りを日々当然のように行なっている事を。是としているのか非としているのか。
「…また難しい事考えてるふりしてんのか?」
『失礼だなぁ…シカマル君は』ふりって…
この世界にいる限り、私は何度だってこの問題にぶち当たるのだろう。
戦争だからと割り切るのか、人殺しなどやめて欲しいと願うのか…
どちらにしても、今すぐにどうこう出来る話ではないのだ。
「ところで…カカシ先生の様子おかしくなかったか?」
『シカマル君も思った!?私も同じ事考えてた』
いつものカカシなら、こんなにも簡単に私から離れただろうか。
きっと私の回復を待って、一緒に木ノ葉里に帰ったのではないだろうか?
この考え自体が、自意識過剰なだけなのだろうか。