第28章 真実と兄弟と、増悪と愛情と
「カカシ」
ミナトが名を呼ぶと、カカシは表情一つ変えずにアゲハの命を終わらせんとした。
しかし、ここでもやはり彼女は言うのだ。
『っ、 だ、め』
俺の膝の上で、必死に訴えるのだ。
死ぬ程痛くて苦しいはずなのに、自分をまさにこんな目に合わせた相手を。
殺してくれるなと、懇願するのだ。
そんなエリの声に、カカシの手も思わず止まったのだろう。アゲハの喉をその刃が切り裂く事はなかった。
「ふ…ざけるな!!!殺せ!!っ、お前なんかに救われたい命なんかない!!今すぐに殺せ!」
喚くアゲハを尻目に、俺はエリに視線を落とす。
「なあ。俺、今ならシュンの気持ち、分かる」
荒く息をする彼女に、呟いた。
「自分よりも、死なせたくない相手がいるって こんな気持ちなんだな。
いくら馬鹿な俺でも分かる。
エリは、こんなところで死んで良い人間じゃねぇよな」
「セツナ!やめろ」
隣でエリの様子を見守るミナトが、勝手に俺の行動を先読みして声を荒げる。
『…っ、セツ、』
「んな顔するな。俺、お前の為なら死ねるわ」
皮肉だな、と思った。
自分が復讐を完遂する為に作り上げたこの舞台。
まさか自分が、兄貴と全く同じ死に様を選ぶ場所になるなんて。
俺は、呼吸を止めた。
それと同時に世界が静止する。
彼女の、荒い呼吸によって上下する肩も。
不安で揺れるミナトの瞳も。
カカシの怒りで震える手も。
全てが一度にストップする。
俺のみが稼働を許された世界。
しかし、この世界も今日で見納めだ。
待っててくれ兄貴…もう少しで、会えるから。
自分と同じように死を選んだ俺を、シュンはどう思うだろうか。
自分の事は棚に上げて怒るか?
いや、
やっぱり兄弟だな、って言って笑うのか?