第28章 真実と兄弟と、増悪と愛情と
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エリが、俺に何かを伝えようと。
その澄んだ瞳をこちらに向け口を開いた。
その瞬間、とす。という軽い音と共に 彼女の体が小さく硬直した。
「—— っ!」
反応出来ていたのはエリの背面側に立っていたカカシだけだった。
彼女の背面に突き刺さった苦無を、カカシが剥き取る。
それが彼女の体を貫通しなかったのは、自分の手が切り裂ける事も厭わず、苦無の刃を直接掴んで止めた、彼の反射神経の賜物だろう。
『っ、ぅ、!く 』
初めて彼女が、顔を歪めた。
そして、ゆっくりゆっくりと。エリの体がこちら側に倒れ込んでくる。
俺は勿論それを抱き留めたが、まだ何が起こったのか全てを理解していなかった。
頭が、それを拒否した。
「アゲハ!!!」
シカマルとかいう忍の叫び声で、はっとした。
そうか。エリは黒蝶アゲハに攻撃されたのだ。と。
「エリ、エリ!大丈夫だから」
何の根拠もなく。ただ言葉を吐くカカシ。
「肝臓まで届いてる。もし毒が塗られていたら、止血も危険だ…」
冷静に分析するミナト。
アゲハを影真似で拘束しているシカマル。
俺だけが、何も出来なかった。ただ座り込んで彼女の体を抱き抱えるだけ。
「アゲハ。毒は?」
カカシが、虫の息であるアゲハに問い掛ける。
苦無に毒が仕込まれていたのかと。それはとても冷やかな声だった。
「…時任…お前の、目的は…
その女を殺す事だと、言っただろう!はたけさんの前で…そいつを殺すと言っていた!
だか、ら…私は協力したんだっ…
それ、なのに…どうして、お前まで…その女に絆されやがって」
カカシは、アゲハの頸動脈に苦無を突き付け。
先ほどより低い温度でアゲハを問い詰める。
「おい。毒は?」
「…はたけさん…私を、殺して」
アゲハは、こちらの声など初めから聞こえてないかのような態度を取り続けていた。
「アゲハを生贄として ここから脱出。それで一刻も早くこいつを医者に連れて行く。
これよりも良案がありますか」
シカマルは、アゲハを睨みつけながら簡単にその答えを導き出した。