第28章 真実と兄弟と、増悪と愛情と

「…約束通り、俺は、お前を殺す」

『……セツナ』

ゆらりと彼が、私の方へ一歩動いた。

…私を殺せば、彼の苦しみが少しでも軽くなるのだろうか。
少しでも救われるのだろうか。

私は目を瞑る。静かに死を、受け入れる。

「おい、…嘘だろ。本気 なのかよ…

いきなり理不尽に、俺なんかに巻き込まれて。関係ない奴の為に…お前は、

本気で、死ねるって思ってるのか？」

私の首周りに、セツナの驚くくらい冷たい手があてがわれる。
しかし、すぐには力は加えられない。

『…セツナが、自分で考えて。

私を殺す事で。貴方が幸せになれるというのなら

私は、いいよ。私の命を使ってセツナが幸せになれるなら…』

「……そんな、事…」

「セツナ。分かっているだろ。お前は彼女を殺すべきじゃない」

カカシが言う。

「…殺せない、と言った方がいいね。

君が命を救われた、あの日から。

彼女は君の光となってたんだろ？
命だけじゃなくて、心も救われていたんじゃないか？」

「知ってたのか…俺とこいつが、会ってた事…」

それにはミナトは答えなかった。

勿論私は彼にセツナの事は話していなかったのだが。なんとなくバレているような、そんな予感はしていた。
やはりミナトは気付いていたのか…。


『セツナ、私の事を殺してもいい。でも、これだけは信じて。

貴方は、皆んなに愛されてるって事。

お兄さんは勿論、最期の最期までセツナの事を想ってた。

それにミナトさんもはたけさんも、貴方に生き抜いて欲しかったからこそ事実を隠して、憎まれ役を買って、生きる目的を与え続けた。

それにねセツナ…。私も同じだよ。
仮に、貴方に初めて会った時から、こうなる事が分かってたとしても。
私はやっぱりセツナを助けたよ。

攫われて傷付けられるって知ってても、私はセツナの命を助けたよ。

お願い…。
貴方の事を思ってる人がたくさんいるってこと、ちゃんと覚えておいてね』