第2章 優しい死神と、おにぎりと大根と
“行ってきます”
自分がこんな言葉を、また口にするなんて思ってもいなかった。
“行ってらっしゃい”
彼女の声は、色で言えば暖色系で。
形で言えば丸だろうか。
なんにせよ優しくて…。何回でも聞きたくて。
どうしてこんなにも
「…っ、耳に残る///」
俺が家に帰って、玄関の扉を開ければ。
次は彼女が“おかえり”と言うのだろうか?
そしてきっと俺は、そんな彼女に“ただいま”を言うのだろう。
そんな自分には見合わない、温かい想像をして。
手渡されたばかりの、握り飯の入った薄水色をした手ぬぐいを。
右手でぎゅっと持ち直した。
————————————————————
クリーム色の手ぬぐいに、丁寧に包まれた
おにぎりを穴が空くほど見つめる。
あぁ、やっぱり家に女性がいるというのはいいよね。こうして昼を持たせてくれたり。
なにより家が華やぐ。
ま、そんな楽観的な話ばかりはしていられない。
言わずもがな、彼女は問題を抱えている。いや、抱えすぎている。
突然の異世界トリップに、自殺願望。さらには
…おそらくだが人に触れられる事に恐怖を覚えている。
一体彼女の身に何が起こったのか…
俺はエスパーみたいに彼女の心の中を読み取ったり。
彼女の悩みのタネを魔法使いみたいに消し去る事は出来ないけれど。
自分が出来る事ならなんだってしてあげたい。
どんな事だってしてあげる。
その代わり
彼女の笑顔が見たい。
あのサラサラの髪を撫でたい。
手を握って、優しい言葉をかけて、赤くなる彼女の耳に唇を寄せたい。
そんな風に考えている、自分に多分自分が一番驚いた。
「俺…こーんなキャラだったかな?」
赤く染まっているかもしれない右耳を、誰にも見られないように手で覆った。