第12章 愛の鞭と、レモンと母と
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「大丈夫?
手握ってあげようか?」
本気なのか、それとも茶化しているだけなのか。彼はやっぱりよく分からない。
『どうして子供扱いなんですか…
大丈夫です。私はもういい大人ですよ』
私は意を決して、魚沼の店へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいま……アンタ…」
私達を出迎えてくれたのは、予想していた通り女将さんだった。
『あの…先日は、急にあんな風に辞める形になってしまって…。ごめんなさい』
「何言ってるんだい!!」
女将さんの声が、店内に響く。
「謝らなきゃいけないのはこっちだろ!
それなのに…お給料も取りに来ないで…
ごめんね…ごめんねぇ」
女将さんの目には、涙が浮かんでいた。
彼女はおそらく…自分の息子の悪行に、薄々感づいていたのではないだろうか。
しかし、自分の力では止める事が出来なかった。
父親のいない現状では、一人息子が可愛くて仕方がなかったのだろう。
『…あの、私は大丈夫ですから。
それより女将さん…私の策にひとつ、乗ってみませんか?』
カカシは、店の端に用意された客用の椅子に 大人しく座ってくれている。
私がバッテラと話をする為に二階へ上がろうとする、その時までは。
私とカカシは階段を踏む。
『…あの、暴れたり…しないで下さいね?』
「相手の出方によるかな」
『はたけさん…』
「ほら、この部屋でしょ。止めても俺も入るから」
ここは妥協してでもカカシの言う事に従う他ないだろう。
同じ部屋にいても、大人しくしてくれているのなら問題はない。
私はノックをしてから、襖を開けた。