第11章 鰹と抱擁と、仲直りと告白と
私は思い出していた。あの時の彼の言葉を。
カカシが、私に見張りをつける事を決めた きっかけになった日の事。
私が猫を追いかけて、迷子になってしまった あの日の事だ。
——俺は本当に心配だったんだ。
仕事してる時も、何してる時も。
——家に帰れば君が…
いなくなってるんじゃないかってね。
——空になった家を見た時は…
本当に心臓が止まったよ。
いま、全部が繋がった。
どうして彼が、私を軟禁まがいな事までして家に閉じ込めたのか。
人の為に死ぬ。という言葉を聞いて滅多に怒らない彼が怒ったのか。
「これは、俺のワガママ。
お願いだから、君は…俺の見てない ところでは死なないでね」
勿論です、とか。分かりました、とか。早くなんとか彼を安心させる為の言葉を口にしたかったのだが。
口をついて出てくるのは嗚咽ばかりで。
『っ、…ぅ、っ…く』
「あーあー君、酷い顔になってるよ。
ごめんね…こんな話、するつもりはなかったんだけど」
次々に溢れる涙。全てを彼の指先が受け止める。
『こんな、辛い話を、させてしまって、ごめんなさい…私、きちんと生きますから。
最後まで、ちゃんと。
自分の人生をきちんと楽しんで、
生きて、生きて生き抜きますから!』
「……うん。
ありがとう。エリ」
分厚いベスト上からでも、彼の生きている証が聞こえてくる。
おそらく、私の鼓動も彼に伝わっているだろう。
今、私達は確実に 互いの心に触れ合っている。