第11章 鰹と抱擁と、仲直りと告白と
『負けたとか、折れたとか!そんなんじゃ、駄目なんです。嫌なんです…、
ちゃんと、お互い自分の気持ちを相手に伝えて。話をして分かり合わないと…っ、
私とはたけさんの距離は…、一ミリも近付かない!
そんなのは、私は…、嫌っなんです…』
「エリは、また。そういう事を言う…
俺は、たまに君が眩しくてしょうがない。
愚直で、真摯で…。直視できないくらいに」
カカシは、未だ止まる事のない私の涙を。自分の指先で拭おうと手を伸ばす。
しかしその手は、例の如く空中で止まる。
「駄目だな、つい。ね、いつも触れそうになっちゃうんだ」
手が降ろされそうになる、その前に。
私は告げた。
『今は…いい、です。
私…はたけさんに、触れて欲しい』
「…いいの?」
ふわりと音も無く、カカシの体が一歩私へと近付いた。
あまりお目にかかれない彼の真剣な目。
全く怖くないか?と聞かれればそれは嘘になる。
しかし、私はもう後悔はしない。
カカシの事で後悔はしたくない。
彼の…心に近付きたい。
確信めいた予感。今、彼と触れ合う事で。
それは、叶うだろうと。
『…はい』
私が返事を言い終わるか、それより早いかというタイミングで。私の体は勢いよくカカシの胸の中におさまった。
彼の長い腕は私の背中にしっかりと回されて、息が詰まる程に強く抱き締められる。
それは、もう。何年も何年も、こうする事を待ち望んでいたかのように。
呼吸すら止まってしまいそうな抱擁を、一心に受ける。
体の震えも、拒絶の言葉も。そんな物が入って来る隙間もないくらい。
「…エリ」
名前を呼ばれ、目を閉じる。
あぁ。貴方の心は、
こんな形をしていたのですね。
私はゆっくりと、彼の背中に腕を回した。