第11章 鰹と抱擁と、仲直りと告白と
耳をつんざくような衝撃音。
突然軽くなった体。
「…俺の名前、呼んでくれてよかったよ。
もう我慢の限界、だったんだ。
ま、呼ばれなくても助けてたけどね」
固く瞑っていた目を薄く開けると。
私が名を呼んだその人本人が、片足を上げて立っている。
「気安くエリーなんて 呼んでくれちゃってまぁ」
壁にめり込んだバッテラを見る。おそらくカカシが私の上にいた彼を蹴り上げたのだろう。
「…立てる?」
『……あ、はい!』
たった一日二日しか会わなかっただけだというのに。酷く懐かしい気がして、つい惚けるようにカカシを眺めていた自分に気付く。
「しょうがないやつだね、コイツ」
カカシは気絶したバッテラに歩いて近付くと、ポケットから私の下着を回収してくれた。
それからカカシは、私の前にしゃがみ込む。
「…もう俺の負けでいいからさ、ここは辞めて?
こんなとこに君を置いとけないよ」
悲しそうな色を湛えた、こんな瞳を見てしまったら…
はい。以外の言葉を選ぶ事など出来ない。
カカシと共に魚沼を出る。
とっくに異変に気付いて、心配そうに私達を見る女将さんを横目に。
私とカカシは商店街を出て、歩き慣れた道で肩を並べて進む。
『……』
言いたい事は山ほどあるのに。
何から話したらいいのか、言葉が出てこない。
先日の事を謝るのが先か。今助けてもらったお礼を言うのが先か。