ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
ユウコとクリスのことに気付いてから、1週間が経った。僕は必死にいつも通りを装っていた。
でも、ふとした時に口から漏れそうになる。
胸のそれはなに?
僕に隠れて2人で何をしていたの?
2人はどんな関係なの?
…ユウコはクリスのことが好きなの?
聞きたくない、それなのに僕の頭はそればっかりだった。
あれ以来僕は何度もクリスからの誘いを適当に理由をつけて断り続けていた。いよいよ言い訳も底を尽きて今日はクリスの部屋に行くことになってしまった。
クリスがそこまで僕に会いたいと言い続ける理由なんてひとつしか浮かばない。きっとクリスは僕にユウコとのことを話そうとしてるんだ。
嫌だなあ…
平常心を保てる自信がない。
憂鬱な気分のままジョセフの迎えがきて、ユウコのリードをベッドに引っ掛けた。
「…じゃあ、ユウコ行ってくるね」
『………うん』
なんでキミがそんなに悲しそうな顔をするの?
「もしかして…クリスに会いたい?」
『っえ!?』
え…?その反応はなに?
嫌悪感すら漂うようなユウコの表情に僕まで驚いた。
「…ユウコ?」
『……っ』
ユウコは突然僕にギュッと抱き着いてきた。
「っ…わ、どうしたの?」
ユウコとハグするのは久しぶりだ。
なんとなくしてはいけない気がして、この一週間あまり触れないようにしてきたから。
『……もうちょっと』
「ん?」
『もうちょっとだけ…』
そう呟いたユウコは背中に回す腕にさらに力を込めた。…わからない、どういうこと?今まで手に取るように分かっていたユウコの考えていることが、今は全くわからない。
でも、僕にはこの温もりを拒めない。久しぶりに嗅ぐユウコの甘い香りに心がジンジンした。
『ねえ…アスラン…?』
「…なに?」
『……クリスには、言わないでね』
「…………っ」
ハグしていることを、
クリスに内緒にしてって…
それはもう僕の中の疑いを肯定する言葉でしかなかった。
…脚が震える。
辛うじて立てているという状態だ。
『…アスラン?』
「う、ん…わかった…」
ジョセフの呼ぶ声に体を離して、僕は背を向けた。目を見ることは出来なかった。