ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
ユウコがこのシャツを着てから僕がここを出るまでの間にクリスとは会っていない。それどころか、2人はあの日以来会っていないはずだ。
それなのに今ここにクリスの髪の毛がついているということは、僕がここを出てから帰ってくるまでの間にクリスとユウコが一緒にいたということになる。
僕がいない間に、ふたりで?
ボタンを外すだなんて…
服を脱ぐ以外に理由が思い浮かばない。
ドクンドクン…
まるで全身が心臓になったように響いた。
僕はユウコに目をやる。
ボタンを外した状態で体を動かしたから胸元に隙間ができていた。
…っあ、見ちゃダメだ
目を逸らそうとした時、僅かに見えるユウコの胸元に赤い何かがあることに気付いた。
傷?
本当はいけないと思いつつもゆっくりと指でシャツをずらす。
するとそこには、真っ赤な小さい丸状の痕のようなものが2つついていた。
なに、これ…?
その隣には少し薄くなったものもあるのがわかった。
「………まさか」
僕の頭には、あの日クリスの部屋から戻ってきたユウコの姿が浮かんでいた。
“…あ、ユウコ、ボタンが”
“っ!…あ…うん”
この痛そうな痕はクリスが、つけたの?
なんのために……?
『…ぅ…っんーん……』
「……っ!!」
うーんと体を伸ばしたユウコが目を覚ました。
僕はバタバタとソファに座る。
『……あれ…あっ、アスラン?…おかえりなさい』
「…あ、…ああ…うん、ただいま」
『私…寝ちゃってたんだね』
何故か辺りをキョロキョロするユウコ。
「…うん……ねえ、ユウコ…」
『なあに?』
「…………ボタン、開いてるよ」
『…っ!?』
バッと胸元を勢いよく隠したユウコ。
…そんなに焦って…
『……みた?』
「なにを?」
僕がそうとぼけるとユウコはひどく安心したような顔になった。
『…ううん!なんでもない』
そのユウコの反応を見た僕は確信した。
あぁ、やっぱりクリスだ。
そしてそれは僕には見られたくないものだったんだね。
「…おかしなユウコ」
僕は無理やりに笑顔を作るので精一杯だった。