第24章 “Long time no see.”
クラウスの号令に、各自が持ち場へと向かった。
会場内に足を一歩踏み入れると、その騒々しさと熱気にアメリアはあてられそうになった。
K・Kと共にアメリアだと気付かれないように変装はしているものの、会場中に響く男達の騒ぐ声に怯えてしまうアメリアを、K・Kはなんとか周囲の目から隠しながら“特等席”へ向かう。
リングをぐるりと囲むように大勢の観客が詰め寄せている中、会場内に入り込んだレオナルドとスティーブンのペアは、上階観客席の手すり近くに陣取り会場内にくまなく目を凝らしていた。
レオナルドはいつも首元にぶら下げているゴーグルをして、義眼で会場内を探っている。
ひしめき合うように輝く観客達のオーラは時に色が重なり合い、混じりあう。
ただでさえ数が多い上に色の判別が難しいものだから、イアンを探すのは一筋縄ではいかないようだった。
「焦らなくていい、まだ試合は始まってない。イアンは必ず来る。見つけたら僕にも視界を共有してくれ」
「はいっ」
一方、ザップとツェッドは地上へ続くエレベータ付近と、非常階段の入り口付近で警戒にあたっている。
イアンが目視できる状態でここから出入りするとは考えにくいが、万一の可能性もある。
それにたとえ姿が見えない相手だとしても出口を押さえておくのは常套手段だ。
闘技場は地下にある。逃げるにしても地上に出るにはザップ達のいる場所のどちらかを通らなければ、いくら幻術使いがいるとはいえ逃げることは不可能に近いだろう。
『ボケーと突っ立ってんじゃねぇだろうなお魚ちゃん。あくまで賭けしに遊びに来たフリしろ。警戒怠ってヘマすんなよ』
『しませんよ。失敬な』
通信でわざわざ煽ってくるザップに、ツェッドはため息をつかずにはいられなかった。
『クラウスさん、全員配置につきました』
チェインの連絡を受け、満を持してクラウスは会場内へと足を踏み入れた。
『──推して参る』
クラウスの言葉に、会場内に潜入したメンバーの気が一気に引き締まる。
少しすると、入り口近くの観客が歓声を上げ、さざ波のように会場中に広がっていった。
場内の視線を一心に集めて、クラウスはリングへ一歩一歩近づいていく。