第4章 感謝を
「入るぞすずめ」
低い声が、私を呼びます。
「炎司様。呼んでいただければ、こちらから伺いましたのに」
すると襖が何の遠慮もなく開かれ、私は炎司様に頭を下げました。
「おかえりなさいませ、炎司様」
「話が終われば直ぐに宿舎に戻る。して、何の用だ」
「奥様と坊ちゃんのことです」
頭を上げ、真っ直ぐと炎司様を見上げます。
6尺はゆうに超えている、巨体。
「冷と焦凍の」
「七つの頃から、ずっとお話を伺い続け、私は疑問に感じていました。あんなにも奥様や、お子様方を思っているのに数日に一度遊郭へ来るその矛盾に。姐様を気にかけているといえば聞こえはいいでしょう」
「何が言いたい」
「炎司様、私は真実が知りたいのです。焦凍様と冷様のご関係は、別にお聞きしました。私が知りたいのは 炎司様と冷様に何があったのか」
冬と春の交わるその空間が、冷えたようにも感じます。
炎司様はその眉間のシワを益々深くさせ、私を睨み下ろしました。
しかし、何かを思い出したように炎司様は畳の上に座ります。
「敷物を」
「構わん」
すると炎司様はふとその眉のシワを緩ませました。
「冷も、そんな女だった」
その言葉に、面食らいます。
「何を」
「干渉をする気はないと言いつつも、ズケズケと人の心の中に入ってくる女だった」
少し話が長くなる、と炎司様は言います。
私は構いませんと答えると、炎司様は懐かしそうに 口をそっと開いた。