第2章 初陣の日
あれだけ見栄を張って家を出てきたというのに、いざとなると手が、足が、己の心が動かない。硬直したまま、なにをするでもなく見つめるだけだった。
しばらくそうしていただろうか。突然目の前の豊臣がざわめき、一斉にこちらを見た。
(見つかった…!?)
しかし、彼らの目は自分よりもう少し上を見つめているようだった。
(…馬?)
蹄のような音がしてくる。そっと、音を立てぬように後ろを向いた。
「何固まってんだ、立てよほら」
伊達政宗が、擦れ違い様微笑んだ。
「Ya―ha―!!!」
政宗は叫んだ。掛け声は愚策だと言ったくせして、である。
どぉと、その周辺にいた雑兵が吹っ飛んだ。
「…! 伊達政宗だ! かかれぇー!!」
「わッ…」
強い衝撃と風がこちらにも届き、茂みが飛ばされた。我が身を隠す物が無くなり、雄司も豊臣の前に丸裸になってしまった。
「こっちにも一人いるぞ!」
げっ、と雄司はうめき声を漏らした。
「一人だと!? 側近か!」
「片倉か! …いや成実か!?」
(ンな訳!!)
一人だったからと勘違いされてはかなわない。雄司はただの雑兵であり、そこまで強くないのだから。
雄司の戸惑いも顧みず、豊臣は雄司を政宗の側近だと思いこんだまま攻めてきた。
(…やるしかない!)
複数人を一度に相手にすることはできそうもないが、実戦の今、ぶっつけ本番でやる以外に道は無い。
「Ha! ぼやぼやしてんなよ!」
しかし、いざ戦おうとした瞬間、政宗が目の前に突っ込んできた。
攻めてきていたほぼ全員がやはり吹っ飛ばされた。政宗がこちらを向き、雄司に向けて指をさす。
「バカな事すんな、お前は残党狩りしやがれ! you see?」
「は… はっ!」
(矛盾しといてバカとかな…!)
雄司は刀を持ち直し、広場の周辺をぐるぐると巡回し始めた。
残党と言っても、先の数回で豊臣はほぼ全滅したと言っていい。しかも、雄司に当たらないように避けた上で突撃しているようだ。あの広範囲に及ぶ衝撃から逃げおおせるはずがなく、辺りにはたちまち死体の群れができた。
結局、雄司は一人たりとも殺めなかった。
少女はどこかに消えていた。