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青一点【BSR】

第1章 選抜試験


 雄司は部屋への道など全く憶えていなかった。
 たしかに興味本位で行きの道は終始周りと見わたしてはいたが、どこでどう、いくつ曲がったか、階段を通ったかなんて事は気にかけてもいなかったのだ。
 背後から、次に指名されたらしい男の威勢のいい掛け声が聞こえてきた。きっと彼も無残にやられたあげく、捨てられるように試験の終わりを告げられる事になるだろう。
(どうしたもんかなぁ…)
 しかし、ここに留まっていて次の男がやってきた時自分は恐ろしくみっともないだろう。雄司はそう思い、とりあえず歩きだす事にした。

 数分もしないうちに迷う己に笑う。

 ええ? こんなとこ通ってない! まずい! これは完全に迷った! やばい落とされる! どうする俺!?
 それほど時間は経っていないのでひたすら動きまわればなんとか部屋に辿り着く事は出来るだろうが―――城は割と広い。ドツボに嵌りそうな気しかしない。
「…は… はは…は…」
 あまりに馬鹿な自分に笑えてきた。傍から見れば、頭のおかしい輩に見える事間違いない。
(…あ)
 そういえば、途中から女中やら兵士やらの人影を見ていない気がする。
 …ということは、ここはもしやうかつに入れない場所ではなかろうか。
 ということはつまりここは、
「何やってんの、ちっちゃいあんちゃん」
 伊達の幹部に関係する場所では?
「ひぎぁ!?」
 振り返ると、先程絡んできた伊達の兵士らしい男がいた。
「んだよー、さっきの威勢はどうしたってのさ!」
「え…? あ… いや…」
「あ、てか何でここにいるの?」
「うっ…」
「ああー… もしかしてー、迷っちった?」
「………ええはい」
 面倒になり、雄司はあっさり認めた。いっそどうにでもなってしまえ。
 というか、この人は変わりすぎではないだろうか。先刻はあまり印象に残らなかったが、今は口を布で覆っていたり、男にしては長い髪を真ん中で分けるなど、下手すると主君より奇抜で異様な格好をしている。
「あ、やっぱり? んじゃー俺がこっそり案内してあげちゃうぜ!」
「……… え」
 てっきり笑われたあげく稽古場まで連行されて小十郎にも笑われるという事態を連想していたのだが…
「もちろん、梵には内緒で。 な!」
「あ、はい」
 梵というのが誰かはわからなかったが、とりあえず厚意に甘えることにした。
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