第1章 勝利、そして平和
―――世界帝が滅びて十数年。
政府は平等かつ公正な政治を行い、世は平和になっていた。
…だがどの世にも不満分子は居るものである。世界帝の圧政から解放され、必死に今日を生きていた者達はある種、縋るものを無くしたともいえた。元世界帝の人間や量産銃に向けていた矛先もそれらが処罰され失われていくにつれ、残る戦の記憶に向けられていった。
――最初に姿を消したのは、煙管の仕込み銃だった。
人と同じように暮らしていた彼は度々主の元を訪れていたが、それはやがて頻度を落とし、すぐに煙の如く消えてしまった。
一人、二人…いや、一挺、二挺と言うべきか。その身を銃から得た者達は姿を消し、レジスタンスの人間がどこを探しても、誰も見つかることは無かった。
その時期を僅かに遡り、民の間ではまことしやかにある噂が広がっていた。
『貴銃士は人の形をしているとはいえ武器だ。持ち主にしか従わない。もし、貴銃士を所有している者が世界帝派の生き残りなら…?平和に紛れて反乱の期を伺っているのではないか……?』
ひそ、ひそ、ひそ、ひそ。人は噂好き、ついた尾ひれは留まるところを知らず。また戦乱の記憶があるものは、銃への恐れを脳裏に描いた。
その噂が古参の二挺の耳に入るのは時間の問題だった。