第3章 青色~青峰~
確かにちょっと上がってみたいかも…とか、気持ち良さそうかも、とか。
そんな好奇心がないわけじゃないけど…なんて、今は言ってる場合じゃない。
(誰が、こいつのいるとこなんか)
例えばこれが仲の良い友達が一緒とか、こっそり一人でっていうのも、たまには良いかもしれないけど。
今の状況からは絶対、ありえない。
私はこの男…とか言っちゃいけないか、一応。
えーと、青峰くんのお誘いは綺麗にスルーして、自分の用向きを改めて口にした。
「私は先生に捜してくるように言われて来ただけだから。美術室、ちゃんと行った方が良いと思うよ」
最後の一言は余計だったかな、って思いながら、私はつい、そう言っていた。
だってまだ一度も選択授業に出たことないとか、普通ありえないし。
スポーツの特待とかって、よく知らないけど、これはさすがにマズイんじゃないのかな…なんて、何となく思っちゃったりして。
(って、余計なお世話だよね)
いらないこと言っちゃったな、って思う私に、彼は動く気もないのか、ふてぶてしく、またしても上から声を落としてきた。
「美術室?ああ、選択授業ってやつか。そういやまだ出たことなかったっけか」
ふてぶてしい…っていうより、憎々しい。
(もうっ、何て奴!)
しかも、この男、これじゃ終わらなかった。
「先生に言われて迎えに来たんだろ?んじゃ、ちゃんと俺のこと連れてかなきゃマズイんじゃねーの?真面目な生徒としては?」
なんてことまで言ってくれて、私はもう一度上を見上げて、睨みつけた。(どうせあいつは見えないけど)。
絶対、馬鹿にしてる。
からかって、人のこと弄って……。
そんなことして何が楽しいんだか知らないけど、私がこいつに付き合う義理なんてない。
「運良く青峰くんを見つけましたが一緒には来てくれませんでした…って報告すれば終わりだから、ご心配なく」
私は悪びれもせずに言い返した。
そういえばいつだったか、青峰くんて何となく怖くて近寄れないとか、話しかけにくいとか、クラスの違う私にもそんな噂が聞こえてきたことがあったけど。
私は不思議と、青峰くんを怖いとは思わなかった。
小学校の『あの時』を除いて…だけど。
少なくとも、今こうしている状態で、怖くて喋れないって感覚はない。
(まあ、腹は立つけど)