第2章 水色~黒子~
正確には、いつの間にか近づいてきてた黒子くんが上から私を見下ろしていた…んだけど、今の私にそんな分析する余裕なんてあるわけがない。
それどころか、今度こそ悲鳴(奇声?)をあげてしまった私は、
「く…く、くろ…っ」
『黒子くん』って名前さえ満足に呼べないし、上手く口も回らないし、顔は熱くてしょうがないし、キャスター付きの椅子に座ったままそこから…逃亡した。
がらがらがらーっ!
床の上を思いきりキャスターが滑っていく。
両足で床を蹴って、真後ろに逃げ出せたのは良かったんだけど。
「っ! △△さん!」
急に黒子くんの焦ったような声が聞こえてきて。
「ぇ………?」
って私が思う間もなく、私の椅子はいつの間にか止まっていた…というより、黒子くんが止めていた。
片手を椅子の背に当てて止めながら、もう片方の腕で何かを押さえているみたいな…体勢……。
不自然なその格好に私が気が付くより先に、黒子くんが何処かほっとしたように溜息を吐いた。
「良かったです。何処も痛くありませんか?」
「黒子くん……?」
そう言われて、私はやっと気が付いた。
図書室のカウンターはそんなに広くない。
そんな場所で今みたいなことをしたら、すぐに何処かにぶつかってしまう。
考えなくても分かりそうなことなのに、私はただ恥ずかしくて、あんなことしちゃって。
(私…何やってんの)
今度は違う意味で自分を恥ずかしく思いながら、私は咄嗟に後ろを振り返った。
そうしたら、そこでは黒子くんの手が、もうちょっとで後ろの棚に激突しそうだった私の椅子を止めてくれてて。
もう片方の手は、棚の上にある本を押さえているのが見える。
もしかして、このまま椅子がぶつかっちゃっても、本が落ちてこないようにしてくれてた…とか……?