第1章 前編 赤髪の皇帝 白髪の少女
ユーリの顔から一切の表情が消えた。
「仮にも四皇と呼ばれている男が、ただの女1人に対してこの仕打ち。そんなに自分の力に自信がないのですか?」
そしてユーリが静かに放ったその一言は、その場の空気を凍り付かせた。
目の前には静かに笑みを浮かべているシャンクス。
ベンは、完全に部屋を出て行くタイミングを失った。
「…何が言いたい?」
真っすぐと、ユーリの翡翠色の瞳を捕らえる彼の視線。
その視線に臆することなく、彼女は言葉を続けた。
「男なら、正々堂々と勝負しろ」
ユーリの言葉に、ベンはまさかと思い彼女を止めようとした。
「…決闘だ!!」
だが、ベンが彼女を止めるよりも早く放たれた言葉と白い手袋。
自分の足元に白い手袋を叩きつけたユーリは、本気で言っているようだった。
ちょっと待て、どこからその手袋を調達した。
そして叩きつける場所が微妙に違うんじゃないか。
ベンは色々と突っ込み切れなくなり、思わず乾いた笑みを浮かべる。
確かに彼女は強いだろう。
だが正直、あのシャンクスに勝てるとは思えない。
この逃れられない状況での苦肉の策だろうが、自ら墓穴を掘ってないか?
何がどうなって、あのシャンクスに戦いを挑もうという考えになったんだ。
彼女はそんなに死にたいのか?
シャンクスが彼女を殺すことも、その戦いを受けることも想像がつかないが、普通の野郎相手なら瞬殺されていただろう。
ベンはこの訳の分からない状況に、ため息が止まらなかった。
「…っく、ははっ」
そして冷え切ったその空間で、響いてきた1つの笑い声。
その持ち主は、もちろんシャンクスだ。
「…あぁ、いいぜ?その勝負受けてやるよ」
意外にも彼女の申し出を受けた彼。
ベンは本気かよと思ってシャンクスを見たが、悲しいことに彼の眼は本気のものだった。
「じゃぁ負けたら、相手の願いを1つ叶えるということで」
そしてシャンクスが受けてくれたことで少し機嫌が直ったのか、ユーリが嬉しそうにそうに提案をする。
おい、完全に自殺行為だが大丈夫かこいつ。
ベンはそんな二人を、どこか遠い目で見守っていた。