第5章 死んだらキミに恋をする【一松】
おれは桜の手を取った。
「あのさ……おれと付き合ってほしいって言ったら……あんた、怒る……?」
「えっ?」
桜が目を丸くする。
「そ、その、あんなことしちゃったのも何かの縁だし、カレシのことは忘れて、おれと付き合ってみるとか……だめですよね……」
目を逸らして言うと、桜がくすっと笑う声が聞こえた。
「私なんかでいいの……?」
当たり前だ。こくこくと頷く。自然と握った手に力が入る。
「す、好き……かも……おれと……付き合って……」
今度はちゃんと目を見て伝える。
おれにしてみたら、一生分の勇気を使い果たすぐらいの告白だ。死んでるから使い果たすも何もないけど。
桜は微笑みながら頷いた。
マジか……。初めてのカノジョだ。まさか死んでから地獄でカノジョができるなんて。
おれは恐る恐る桜の背中に腕を回して抱き寄せる。すごい、恋人だから拒否されない。死んでいても温かくていいニオイ。確かに腕の中に彼女の存在を感じる。
「ねぇ、キスしようよ……」
桜の甘い声。
誘われるように、おれはゆっくりと可愛い唇に口づけた。
ああ、桜の唇、柔らかい……柔らかすぎて逆に地獄……。
チュッチュッと音を立てながら、おれたちは何度もキスを続ける。
「あのう、乳首ちぎられる地獄を待ってるんですけど、順番はまだですかー?」
岩の向こうから男の死者が覗いた。
「うるせぇ! 邪魔すんな! ハンコなら押してやるよ! ほーら、特別にご褒美だぁっ!」
おれは片手でハンコを押す。
「やった! ラッキー!」
男が大喜びで岩の影に消えると、おれは桜を押し倒した。