第32章 I am making my mind
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「大阪区…江洲羽市…」
緑谷の唾を飲む音が、静かな廊下に響くと
続けるように塚内は
「その周囲をくまなく捜索しろ…!
廃ビル…廃工場…民家に潜伏している可能性もある。洗いざらい調べろ」
「江洲羽……」
静かな廊下で呟いたのは緑谷だ。
ドアの向こうの音声を聞きながら、同じく盗み聞きをする轟の方を見やる。
「…そこにくるみは居んのか……」
「多分ね…
あの人数だ、そんな狭いところには隠れてないと思うんだ…かっちゃんも増えたわけだし」
「それで…どうする…?」
轟がのぞき込むように問うと、緑谷は、顎の下に添えた手を離し、深緑色の瞳を持ち上げ轟を見やる
「もちろん、助けに行く」
「何がもちろんだ」
ドアの向こうではっきりと響いた声に、緑谷と轟は肩を跳ねさせた。
ーーーガラガラ
音を立てて開いた教室のドア。
しゃがみこむ2人は、逃げる暇もなく中腰の体制のまま、ドアの向こうの人物に見下ろされた。
「学ばないね、お前らは」
「相澤…先生…」
バツの悪そうに俯く2人に、相澤は頭を搔く。
叱咤されることを覚悟して、2人廊下に並び立つ
「そういうところだぞ、お前らがヒーローとして直さないといけないところは」
「すみません……」
「どうするつもりだった、また変な変装でもして勝手な行動をするつもりだったか」
「……」
「……」
「行くなら、きちんと助けに行け」
シン…と静まった廊下に、相澤の声はやけによく響いた。
「…先生、それって」
「ただし、お前らに戦闘はさせない…
でもお前ら、どうせ止めても来るだろ。
なら俺達プロヒーローの後ろから見ていろ、それくらいなら許可してやる」
最悪の事態……例えば、ヒーローたちの全滅時を考慮して、ヒーローコスチュームだけは装備を許された二人は、
そんな数日前のやりとりを思い出し。
自分たちの思いを汲んでくれた相澤との約束のため、絶対に個性の使用をしないよう、両拳を固く握った。