第1章 YOURNAME【明智光秀】 【R18】
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私がBOTANICAL GARDEN TYOを“卒業”して1ヶ月が経った。
今はカフェでアルバイトをしながら最低限の生活費を稼ぐ“普通の大学生”になった。
これから急な出費(教材とか留学とか語学学校への入学費用とか)が必要になったら貯金した1,000万に手を付けるつもりだ。
貯蓄がある程度あるので、精神的な余裕をもって勉強ができる……そんな“平和な生活”がそこにはあった。
でも、私の心には小さな穴が開いていた。
忘れられない人がひとりいる……。
名前も、職業も分からない人……。
苗字はわかっているもののその人の苗字で検索しても“その人”の情報は得られなかった。
もしかして、苗字も仮だったのかな……。
意地悪でだいぶ変わってるけど、聡明で本当はとても優しい“その人”に、私は恋をしていたのだと、日常に戻ってから痛いほど思い知った。
≪もう一度、あの人に会いたいな……≫
そんな思いはきっと届かないだろう。
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その日の授業は午前だけだった。
このあとはたまたまバイトも入っていないから、午後は少し図書館で勉強してから新しい本でも買いに行こうかな。
でもその日のキャンパスの様子は何かいつもと違っていた。
「すごくない?……」
「やばいよね、芸能人かな?」
2限が終わって、昼食を買いに行こうと生協に向かう途中、すれ違う人は男女問わずみな口をそろえてこんなことを言っている。
≪ドラマとか写真集の撮影でもしているのかな≫
そんなことを思っているとふと後ろから声をかけられる。
「あ!梨沙!おはよー。 ねえねえ、見た?」
振り返ると声の主は予想通り、いつも大学で一緒にいる友人、 麻衣子 だった。