第19章 ※特別な休みはお前のせい?
「……ちょっと、」
「ん、どうした?」
「頭……なんか、恥ずかしい。」
そう言って俯く彼女に、俺は聞き返す。
もちろん、手は止めずに。
「何が恥ずかしいんだよ。」
「だって……、」
もごもご口ごもる美咲は、唇を尖らせて答えた。
「頭撫でられるなんて……子供の頃みたい。」
視線を外したままでそう言った彼女の顔は、ほんのり上気している。
俺から逃げたいのか、それとも……
これは……、照れてる、と、解釈すればいいのか?
居心地悪そうにしているわりに、本気で拒否はしない。
やめてやろう、っつー事なんてカケラも思っちゃいねぇが、そういうリアクションをされると、俺としてはもっとそんな顔が見たくなるのは当然、だろ。
「はぁー……なるほど、な。」
呟いて、美咲の身体を強く引き寄せた。
俺の胸に押し付けるように、ぐっと。
「や、ちょっと……、」
戸惑う声にも怯まず、逃れようとする彼女を捕まえ、ぎゅうっと強く抱き締めた。
逃がさねぇ、絶対に。
……そんな意思を込めて。
ゆるゆると髪を撫でていた、ら。
「……勿体ねぇな。」
「へ?」
美咲の間の抜けた声で、自分の心の声が漏れていた事に気付く。
言いたくはなかったが、こうなっちまったら仕方がねぇ。
俺は出来るだけ何でもない風を装って、『もったいない』理由を紡いだ。
「お前の親、さ……損してる。」
「な、にが……?」
また眉を寄せた美咲の頭の形を確認するように、その心地いい髪をするりと撫でた。
さっきの彼女の物言いだと、多分髪を撫でられる行為は久しかったに違いない。
5年前、壁が破壊されるよりも、きっと前の事だろう。
「こんなに綺麗で気持ちいいのにな。お前の髪。」
そこらの娼婦や、酒屋の女がしているような、化粧が施せる顔とは違い、素のままでしかいられない髪。
だからこそ、髪質がよく分かる。
どんな手入れをしているのか、男の俺にはサッパリ分からねぇが。
この長さの髪を綺麗に保つのに、どのくらいの労力を必要としているのか疑問に思えるほど、美咲の髪は柔らかくて、気持ちが良かった。