第16章 小さなシアワセ雨のせい?
俺の発言に、目を白黒させた美咲に顔を寄せ、耳元で囁く。
淡く、甘く、響くように。
「文句なんか、言えねぇようにしてやるぞ?」
「ッ……ば、バカ!」
言うが早いか、飛んできた平手を躱す。
当たらなかった事がそんなに悔しいのか、美咲は俺を見上げるようにして睨んできた。
へぇ。
その顔も……挑発的で中々いいな。
そんな事を思っていたら、美咲が唇を噛み締めてから、小さな声で尋ねてくる。
「……いつ、戻るの?」
「ん?もうちょいしてから。」
「……そう。じゃ、お風呂行ってくる。戻るなら、誰にも見られないようにしてね。」
言い残してふいっと踵を返し、部屋を出て行こうとする美咲。
怒りはまだ消化しきれていないだろうに、冷静さを滲ませる彼女の態度が、妙に可愛い。
突然切り替えられた雰囲気に、苦笑しながらも、俺はその背中に声を投げる。
「りょーかい、美咲さん。」
からかったように聞こえるであろう、そんな台詞を残し。
パタン。
美咲が部屋から出て行った。
降り続く雨の音が、何故だか今日は、楽しく耳に入る。
コップの中の水を一口飲み、呟いた。
「……やっぱ、好きだな。あいつ。」