第13章 私の誤解と憧れのあの人
忙しさの波は、やがて終わりを迎えた。
調査兵団で仕事をしていたら、緩やかに終幕を迎える事もあれば、慌ただしくぷつんと途切れるように終わる時もある。
任務によって、まちまちだ。
私は、ハンジさんの書き込められた資料の最終確認を行い、
タン。と小気味いい音を立てて資料のばらつきを整え、大きく伸びをした。
「……終わっ、たー……。」
まだ作業スペースの資料は錯乱したまま。
けれど、もう後は今手元にある資料にサインをしてもらうのを待つだけだ。
片付けは後からすればいい。
んーっ。と言葉にならない音を発しながら、ぐっと身体を逸らし、ぐっと手に力を入れる。
そして脱力して作業台に手を付ける。
身体中に血液が回る感じが、気持ちいい。
「おう、お疲れ。」
うっかり目を閉じていた私に降って来たのは、ジャンからの労いの声。
近くにいることにすら気付かなかった。
「ありがとー。」
そう返事をして、作業台に突っ伏していた身体を起こすと、コトン。と小さな音がした。
作業台の空いたスペース、ちょこんと置かれた湯気の立つコップ。
中身は紅茶のようだ。
「お前頑張ってたから、ご褒美な。」
浅く笑ったジャンの顔が、何だか優しい。
調子狂うなぁ。と思いながら手に取って、御礼を言う。
「……ありがと。」
「ああ。こっちも片付いたら何か奢れ。」
「……ヤダよ。」
こっちが珍しく素直に感謝の気持ちを伝えてるってのに、全く。
溜息を吐きながら、湯気をふぅふぅ。と追いやり、ティーカップの節に口を付けた。
はぁ……あったかい……ホッとする。
疲れた身体に、温かい紅茶が沁みる。
ふぅ。と安堵の息を吐いていると、バタバタと先程から騒がしいハンジさんが大きな声を出した。
「美咲ー!後はサインもらうだけだから、帰りに団長室に寄って、もう今日は休んでいいよ!」
未だにバタバタとしている彼女は、多分私より疲れているであろうに、研究と開発で夢中なようだ。
私は一気に紅茶を飲み干し、ハンジさんの言葉に甘えるように、残りはサインをもらうだけの資料を準備して、作業スペースを離れた。
ジャンはいつの間にか、任務に戻っていたようで、見当たらなかった。