第12章 ヒトリの夜は誰のせい?
コンコン。
誰も周りにいない事を確認し、小さくドアをノックする。
いくら待っても中からの反応はなく、眉を寄せる。
「……んだ?」
美咲がハンジさんに言われて帰ったのは、1時間半程前だから、エルヴィン団長からサインをもらうなんて用事は、とっくに終わっているはずだ。
ただ書類にサインしてもらうだけだから、すぐ部屋に戻ってんのかと思ってたっつーのに。
もう一度、ノックしてみる。が、もちろん反応はなかった。
確かに、何も伝えてねぇが。
……勝手にいいアイディアが閃いたと喜んでいただけだ。
自分の浮かれっぷりに呆れる。
せめて今日の事、伝えておくべきだった。
溜息と共に、ふと、思いつく。
「……もしかして、もう寝ちまってんのか?」
ありえるな。
最近は忙しかったし、疲労だって身体に来てるはずだ。
まぁ、それなら勝手に部屋に入って、飯食って俺も隣で寝よう。
そう思って、ドアを開いて、勝手に部屋に入る。
予想通り、部屋の灯りはない。
部屋の中まで静かに歩いていき、彼女が寝ているであろうベッドを確認する。
……しかし、美咲はそこにいなかった。
部屋の主人がいない静かな空間。
途端に胸が騒つく。
食堂にいるのかも知れないのに、決定的な何かがあったわけじゃないのに、この渦巻く嫌な予感はなんなんだ。
足音を立てぬよう努めながら彼女の部屋を出て、急ぎ足で食堂の中を確認しに行くが、もちろんそこに美咲の姿はない。
口元を手で覆って考え込む。
もうひとつ、思い当たることがある。
エルヴィン団長の部屋に、必ずしも彼“だけ”がいるわけでは、ない。
思考が纏まるよりも先に、キリキリと胸の奥が痛くなる。
美咲がいないなら、食堂には用はない。
彼女の部屋の、普段なら中の光が見える場所。
兵舎から宿舎への通路の淵に立って、彼女の部屋を見つめた。
……なぁ、美咲。
今、お前の中で俺って、どれくらいの存在なんだ?
弱気な自分が顔を出す。
こんな風に、誰かの部屋の窓を見つめた事なんて、もちろん経験した事がなかった。