第11章 距離が縮まるアイツとあの人
ベッドで横になっている私の頭を、ジャンの手が、優しく撫でる。
……それが、昨夜の記憶の、最後。
あまりにも優しいジャンに、正直言うと、見返りが恐ろしい。なんて思っていた私。
その予想とは裏腹に、ジャンは何も要求する気配を見せなかった。
きっと、私が眠った後に、自分の部屋に戻ったんだろう。
兵団の朝は早い。
集合時間まで、そう時間はなかったはずなのに。
なのに、ジャンは最後まで私に付き合ってくれた。
自分の睡眠時間を削ってまで、側にいてくれた。
ジャンが何を考えているのか、その意図が分からない。
けど。
同じ空間にいる空気が。
隣にいてくれる安心感が。
頭を撫でる温もりが。
私を包み込むように癒してくれた事だけは、疑いようのない事実だった。
「美咲ー!」
昨夜の事を振り返りながら、黙々と作業に取り掛かっていた私を呼ぶ、ハンジさんの声。
すぐに反応して、一旦作業を止め、手招きする彼女に寄る。
「あの資料、やっぱり少し確認したいところがあるから、エルヴィン達と見てもらってもいいかなぁ?」
一瞬ドキッとしたが、すぐに平静を取り戻す。
エルヴィン団長と話すのは、別に初めての事では、ない。
アニ……
女型捕獲作戦の時にも、その後も、何度か話した事はある。
ただ、気になったのが、ハンジさんが言った、エルヴィン“達”という、複数人を表す表現。
「分かりました。」
短く答えて、ハンジさんに頭を下げる。
何故か、ジャンの方は、見れなかった。