第11章 距離が縮まるアイツとあの人
「あーもう!疲れたー!」
中央憲兵が隠していた資料は、どれも見た事がないような事実ばかりで、ただでさえ分からない事だらけの私を精神的に追い詰めて。
叫び出したくなる衝動を呼び寄せる。
自分で思っていた以上に、ストレスが溜まっていたようだ。
パンを含みながら、もぐもぐと口を動かす私の背中を、ジャンは優しく撫でて、空になってしまったグラスにお水を注いでくれる。
「ほら、水。まぁ飲めよ。」
「飲むよ!」
パンのせいでパサついた口の中。
私はそう言って、ぐっとお水を流し込んだ。
ジャンは、オムレツ以外にも、3つもパンを持って来ていて。
さすがに食べきれるとは考えていないだろうけど。
千切って、食べて。
また千切って、食べて。
その度に減っていくグラスに、またジャンがお水を注いでくれる。
「その元気がありゃ大丈夫だよ、お前は。」
そう言って、優しい手付きで頭を撫でられて。
髪越しに伝わる手の温もりは、なんだか安心する。
どうしてだろう。今日のジャンはいつもと違う。
労ってくれる声も。
優しく触れる手も。
包み込むような空気も。
全部、私が今、一番必要なものだと思えてくる。
相手はジャンなのに。
私を災難に導く、“暴君”なのに。
なのに、今日、この時間は。
ジャンが側にいてくれる事で、私は救われている。
……それにしても。
「……ねぇ。」
「ん?」
「何で……今日、来てくれたの?」
最初から、気になっている事だった。
こんな風に突然来るなんて、今まで一度もなかった。
女子寮と男子寮は、遠くはないけど離れてるし。
それ以上に、私が弱っているところを見透かされているかのような行動に、胸がざわついたのだ。
先に部屋に戻ったと思ったのに、わざわざ来てくれて。
御飯も作って来てくれて。
愚痴にまで付き合ってくれて。
ジャンだって壁外に出て疲れてるだろうに、どうしてそこまでしてくれたのか、疑問だった。