第10章 揺れた瞳はダレのせい?
グルグルと回りに回って、纏まってくれない俺の思考に飛び込んで来たのは、美咲の柔らかい声だった。
「……ありがと。」
まさかの言葉に驚いて、一瞬何を言われたのか分からなかった。
たった一言なのに。
……けど、美咲の柔らかい表情が伝えてくる。
嘘偽りのない気持ちだって、そう思える。
俺の頬は自然と緩み、笑みが溢れた。
美咲の言葉ひとつで、こんなにも心が満たされていく。
俺が笑うと、美咲も笑う。
お互いに少し照れたような、なんとも言えない、くすぐったい空気が流れて。
それは、これまでにない変化だと気付きながらも、口には出さなかった。
もう少し、この、ふわふわとした高揚感を、味わっていたかった。
そして、笑い合いながら話して、先にウトウトして来たのは美咲の方で。
当然と言えば当然だ。
俺とは精神的な疲労感が違う。
俺の肩に頭を乗せ、今にも目を閉じてしまいそうだった彼女に、そっと囁く。
「……おい。ここで寝るなよ。ちゃんと横にならねぇと、疲れ取れねぇぞ。」
「ん……。」
唸った美咲はもう、瞼を上げる気配もない。
放っておけば、確実にこのまま寝てしまう。
「……ったく。」
大人びてるような、子供のような。
まだまだガキだな、コイツ。
呆れたように息を吐いた俺は、落ちる寸前の彼女の身体をソッと起こし、ベッドに横たえる。