第10章 揺れた瞳はダレのせい?
「あーもう!疲れたー!」
胸の内を吐き出しながら、美咲は千切ったパンを口に含み、思い切り身体を伸ばした。
「ほら、水。まぁ飲めよ。」
「飲むよ!」
食堂から持ってきたグラスに水を注ぐと、美咲はすぐさま飲み干した。
……いい食いっぷりだし、いい飲みっぷりだなぁ。
苦笑しながらも俺は、空になったグラスに再び水を流し込む。
そして、少しずつ肩の力が抜けてきて、随分とリラックスした様子になってきた美咲の頭を、そっと撫でた。
「その元気がありゃ大丈夫だよ、お前は。」
言いながら触れる髪は滑らかで、とても心地が良かった。
触れた部分からほのかに漂う、美咲からは甘い香りがして、それがまだ興奮を呼び起こす。
穏やかな時間の中、触れる彼女は……
繊細なガラス細工のようだ。
どこまで強引に触れたらいいのだろう。
どれだけの力を込めて触れたらいいのだろう。
未だにそんな事に迷ってしまう俺がいるなんて、な。
ひと通り吐き出したのか、勢いが落ち着いた美咲。
俺も少しは役に立てたんだろうか。
そんな事を思いながら、ボンヤリとしていたら「……ねぇ。」と声を掛けられた。
「ん?」
聞き返すように彼女の方を向く。
美咲は少しだけ戸惑いを含んだ表情で、俺の顔を見上げていて。
「何で……今日、来てくれたの?」
身長差のせいか、瞳だけが窺うように俺を見つめている、その顔は……
ただの疑問をぶつけているのとは、違うように見えた。
同期に身長が小さな女は、アニやクリスタだっているが、オンナの上目遣いに動揺したのは初めてだった。
が、それを押し隠して唸る。
……美咲からしたら、確かに変な行動だっただろうな。
今まで、なし崩しにこの部屋に入り込んだのは事実だが、今日のように前触れなく押し掛けた事は、なかった。