第8章 秋は夕暮れ②
巧は、、、私と別れたらこの人と付き合うのかな?
彼女の笑顔を見ると、ふとそんな考えが浮かんだ。
胸の辺りが騒つく。
しかしすぐにかぶりを振った。
バカな、、、ウケる。
沙織は自分の愚かさを嘲ったが全然笑えなかった。
暗い気持ちで彼女の方を見ると首をかしげた小動物のような顔でこちらを見ている。
可愛い人。
その顔には全く悪気がない。
沙織はその鈍感さに少し救われたような気がして、
「はい、大丈夫です」
と笑って彼女の隣に腰掛けた。
「私さぁ、ここが開いた時からいるじゃない?」
突然、彼女は話し出した。
「はぁ」
突飛押しもなく話をするのが彼女の特徴だ。
「昔、店長ってね、すっごく怖かったの」
「え?」
いつもヘラヘラして、優しくて、誰からも好かれるあの、巧が?
「あ、いや、えっと、そう思ってたのは私だけで、お客さんからも店の皆からも評判は良かったんだよ!」
なぜか彼女はあせあせと何かを誤魔化すように早口になった。
「でもさ、なーんか目は笑ってないというか、、、私にはまるで能面みたいに見えて!特にあの目が線みたいになって笑う顔とか!!」
「ブハッ!」
彼女は丸い瞳を指で引っ張って、線のような目を作った。その顔が可笑しく沙織は吹き出した。
「あっ!やっぱり?香田さんも思ってた!?」
「あ、、、いや、そこじゃ、、、」
「やっぱりそうだよねぇ。ワザとらしいって言うか、何か隠してるっていうか、本当は面白くないのに笑ってるような気がして、、、正〜直!胡散臭かった!!」
賛同者を得たのがそんなに嬉しいのか、彼女の勢いは止まらない。
胡散臭かった!!って、、、笑
「でもね!そんな店長がある時からちょっと変わったの!」
香田が苦笑していると、突然彼女はピッと人差し指を立てて振り向いた。
「香田さんが来た時くらいから!!」
「え?」
彼女の目は真剣だった。