第8章 秋は夕暮れ②
「ハァ、、、」
見慣れた扉の前に立ち沙織はため息をついた。
ここまでの道のり、荒北とは会わなかった。
できることならここに着くまでに追いつきたかった。
沙織はTシャツの裾ををギュッと握りしめた。
荒北は中にいるのかな?
入っても、いいだろうか、、、?
心臓がやたら大きく脈打ち息苦しい。
そんな時、
「あれ?もしかして香田さん?」
高く明るい声にビクッとして振り向くと、つい一昨日まで一緒に働いていたバイト仲間がいた。
「あ、、、」
もう一緒に働けなくなってしまった気まずさとともに、沙織は自分がすっぴんであることに気がついた。
思わず頬に手をやる。
学校には普通にすっぴんで行っていた。
全然恥ずかしくない。
むしろそれが沙織にとっての普通なのだ。
おかしいのはこっちだ。
いつのまに私はこうなってしまったんだろう。
「ってゆーかどうしたの??昨日、突然やめることになったって店長から聞いてビックリしたよ!」
巧から、、、そう、聞いてるんだ。
沙織は目を伏せた。
「僕たち、終わりにしよう」
もしかするとそう言われたのは夢だったのかもしれない。
もしかすると何かの間違いだったのかも、、、。
そんな淡い期待さえも許してもらえないのだと知り、沙織はまた涙が出そうになった。
「もし良かったらさ少しだけ話さない?私、バイトまで少し時間あって暇してたんだー!」
そんな沙織の様子に気づいてか気づかずか、彼女はすでに扉の前に座り込み、その隣に座るように促している。
白い肌に少し赤みがかった茶髪が可愛らしい彼女は、沙織より幼く見えるが確かそろそろ20代も半ばになる。いわゆるフリーターのようなもので、実家の家事手伝いのついでに夕方からここでバイトをしている、ある意味ではシフト管理のしやすい従業員だ。
沙織が来るより前から働いていて仕事もできるが、少し鈍感というかマイペースなところのある女性だった。
沙織はそのマイペースに少し救われたような気がして、
「はい、大丈夫です」
と笑って彼女の隣に腰掛けた。