第8章 秋は夕暮れ②
「正解!沙織が荒れてた時、僕はケンカが苦手だからこんな風にしてさ、、、彼女に何とか言うことを聞いてもらっていたんだ」
巧は荒北の内心には気にも止めず、遠くを見るような表情をした。
荒北は呆れながらも聞いた。
「っつーことは、、、テメェがアイツに勝ってたっつーコトかヨ、、、?」
「そーゆーこと。僕、コレは昔から負け無しなんだ」
「チッ!」
荒北は完全にハメられた、、、と思った。
舌打ちをする荒北を見て巧は嬉しそうに目を細めた。
「沙織は負けず嫌いだから、何度も何度も挑んできて大変だったけど。僕ももう若くないからね」
アイツがやたらと力が強いのはそのせいか、、、
と荒北は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「じゃあさ、、、」
巧の瞳がまた光る。
「じゃない方は、、、“した”ことあると思う?」
突然の問いに荒北はまたイスから落ちそうになる。
「バ、、、!ハァ!!?テメェ、何のつもりで、、、」
荒北が怒鳴るのを巧が途中で遮った。
「無いよ」
目を瞬かせながら巧の顔を見上げると、ニコニコと無邪気な笑顔が見えた。
「は、、、?」
覚悟は、、、していた。
こんな年上の彼氏がいて、そんなハズはないと。
それにさっき沙織から聞いたのだ。
何度も一緒に朝を迎えたと。
だから自然と理解していた。
つもりでいた。
「、、、何でンなこといちいち言うんだよ」
荒北の声が低くなった。
「君が気にしてるかと思って」
巧は変わらずニコニコしている。
そんなコトを気にするほど自分は綺麗じゃないコトくらい分かっている。
だがいざ沙織の口からそう聞いた時、胸が騒つくのは抑えようもなかった。
だから今、巧の言葉でどこかでホッとしている自分がいる。
そのことを巧に指摘されて、荒北は砂利でも噛んでいるような気分になった。
「そしてこれは君にだけ話しておきたいんだけど」
苦々しい顔をする荒北を尻目に巧は言葉を続けた。
「君には知っていてほしい」
不貞腐れる荒北の目を巧が捉えた。
その目は荒北が今まで見たことがないくらい真剣だった。
「僕がどれだけ彼女を大切にしていたか」