第8章 秋は夕暮れ②
ガチャン、、、
扉はゆっくりと閉まり、夕日が射して明るくなった沙織な部屋は再び暗くなった。
その瞬間沙織はハッと我に返り、裸足のままドアノブに飛びついたが、ガチャガチャと煩い音を立てるだけで扉はビクともしなかった。
荒北が押さえてるんだ、、、。
沙織はすがるように扉を見た。
すぐにでも荒北の肩を掴んで振り向かせるつもりだった。
そして荒北がどんな顔をしているのか、もう一度ちゃんと確かめたかった。
しかしやはり扉は動かない。
沙織は諦めたように小さく息を吐いた。
そしてまるでそこに荒北の背中があるかのように、ゆっくりと優しく扉に触れて問いかけた。
「荒北、、、?」
そこにいるの?
そして沙織は扉に右耳を押し当てた。
荒北の声を聞き逃さないように。
荒北の様子を少しでも知れるように。
耳を澄ました。
しかし荒北は黙ったままだ。
頬には金属独特のヒンヤリとした感触が当たって冷たい。
しかしこの向こうに荒北がいる。
そう思うだけで少しだけ温かく感じた。
荒北、、、
もう一度その名前を呼ぼうと口を開けた時、
「、、、大丈夫だ」
荒北の声が聞こえた。
ドクン、、、
その声は今までになく低く静かで優しくて、
そのせいか沙織の心臓は小さく跳ねた。
そして沙織が反応する間もなく、荒北が駆けていく音がした。
沙織は焦って扉を開けた。
さっきまでビクともしなかった扉はすんなりと開いた。
「荒北!!!」
寮の廊下に沙織の声が響く。
少しだけ廊下の先を曲がる荒北の背中が見えた気がしたが、追いかけることはできなかった。
裸足で飛び出した廊下はやけに冷たかった。