第2章 Please give me...
「な、んで」
ナナバは再び、驚きに大きく目を見開く。
その目じりには、暗闇でもなお淡く輝く金色が、細くしなやかな影を落としている。
「でもまって、もうすぐ」
そう、もう何日もせずに、明日には帰ってこられるというのに…
エルヴィンは瞬きで頷き返すと、静かに続ける。
「予定をこなしてその日がくれば帰れる。勿論それはわかっていた」
「だから、毎日目の前の案件で頭をいっぱいにして…考えないようにしていたんだ」
「…何を?」
「君のこと」
エルヴィンはナナバの鼻先へ唇をよせる。
触れるだけのキスに、嬉しさか、はたまた恥ずかしさか、ナナバの頬がほんのりと染まっていく。
「頑張ったんだよ、一日目は特に大事だからね」
「二日目は…?」
「ぅ…、だめだった…」
「ぷっ、早い…ふふ」
染まる頬はそのままに、ナナバは小さく噴き出す。
「うん、自分でも驚いた。だが一度考え出してしまうと…どうしても会いたくなってね」
「もし、会えなかったら…?」
「それでもよかった。いや、勿論残念ではあるが…」
「時間も時間だ、会えない覚悟はしていたよ。それでもここに帰ってきたかった」
無理を承知で馬車を手配し、深夜という時間帯にも関わらず、たった…たった数時間の為だけに帰ってきた。
「我慢できなかった」
「会えなくてもいい」
「君がここにいる、それを感じたかったんだ」
「エルヴィン…」
「我ながら女々しいとは思うが」
「ううん、嬉しい。そっか…思い切って来てよかった」
思い切って、とは…
もしかして部屋に来るのは、今日が初めてなのだろうか?
エルヴィンの鼓動がほんの少し早まる。
「ナナバ…、私に会いに来てくれたのかい?」
「…ん、そう、なるのかな」
恥ずかしそうに顔を伏せ、今度はナナバがエルヴィンの胸元へと額をこすり付ける。
「いない間退屈で…、それで、その…、来たんだ」
本当は他にも理由がある。
あれ以来、深く触れ合っていない。
それが不安だったのだ。
(だからせめて…)
今日だけでいい。
ここで眠りたかった。
エルヴィンを、感じながら。