第2章 Please give me...
「でも、私がいたら休めないんじゃ」
「まさか。むしろ君がいないとだめだ」
まるでねだるように、胸元に額をこすり付けるエルヴィン。
「お願いだ…頑張っている私へのご褒美だと思って。ね?」
そんな彼をナナバは抱きしめ返すと、優しく背中をさすってやる。
「ん、わかった」
「ありがとう。夜明けまでで大丈夫だ、その頃にはここを発つ」
「え…」
(帰ってきたんじゃないの?)
「エルヴィン…、ね、何があったの?」
「……」
「ごめん、しつこいか…」
エルヴィンは『ふぅ』と小さく溜息をついては、観念したというように眉尻を下げる。
「明日、ではないな…今日の会議でどうしても必要な資料があったんだが、それを忘れてしまってね」
「うそ…珍しい…」
あのエルヴィンである。
まさかそんな凡ミスをするなど…、誰も思わないだろう。
「だから、急いで取りに戻った」
「そうだったんだ…、」
お疲れ様、とナナバは言おうとしたが、エルヴィンの以外な一言でそれは喉の奥へと引っ込む。
「という体で、帰ってきた」
「えっ」
(…あぁ、やはり驚いているな)
そんな、彼女にしては珍しい表情に、してやったり顔で続けるエルヴィン。
「大丈夫、忘れ物はないよ」
「ちょっ、もう…!心配して損した…」
「本当はね」
エルヴィンは軽く背筋を伸ばし、額と額をそっとあわせる。
「…君に会いに、帰ってきたんだ」