第10章 11月『王子様の超越』
(視点)
ついに、当日がやってきた。
昨日は兄さんの家に泊まったから
体調も万全。
劇の後の脱出ルートも確認したし、
台詞とイメトレは完璧だ。
「よし。」
ぺちぺち、とほっぺを叩く。
頑張れ、僕。
「………………。」
兄さんの目に心配、の2文字が写っている。
「…………なに?」
僕が返事をすると、
兄さんが僕の前髪をかきあげて、
おでこにキスを落とした。
「………………。」
昨日、悟郎にダメって
言われたばっかりなのに。
「………んん、……。」
「…………何かあったら、すぐ言えよ。
俺、絶対行くから。」
「……………うん。」
僕がそう頷くと、兄さんも
安心したように笑った。
「……『おお、なんて美しい姫なんだ。』
『僕と結婚してください。』………」
ぶつぶつと台詞を言いながら教室に入る。
昨日よりも、きっと何十倍の生徒が
僕らの劇を見に来る。
でも、会場は暗いし、
動物だと思えば、きっと怖くない。
僕なら出来る、きっと出来る。
「………草薙。」
「……『共にお城で』…………?」
最後の台詞を言おうとした時、
誰かに呼ばれて顔を上げると、
男子のクラスメイトが僕に話しかけてきた。
……こんな事、1年に1度かもしれない。
珍しい。
「………あのさ。
……昨日、大丈夫だったか?」
「………うん。」
クラスメイトに会うのは体育館のアレ以来だ。
真田先生には夕方会ったけど。
……昨日の事、気にしてるんだ。
僕の事なのに。