第7章 ♡月と雪と日陰の花と、日向の花
「え......そ、んな...!
じゃ、やっぱり...羊さんだって...
とても辛い思いをされていたんじゃ...!」
羊のその言葉に、
めるは今にも泣きそうな顔で羊を見る。
『ん?ああ!でも、ほら!!
さっきも言った通り、
俺、全くその時の記憶ないし、
物心ついた時にはすでに施設にいて
めちゃくちゃ楽しく毎日を過ごしてたから
全っ然!本当に全っ然なんともないの!』
心配そうなめるを見て
焦って羊はぶんぶんと手を振る。
なんともない...
と言っていいほどまでかは分からないが、
彼の様子を見る限り、
そんな辛い過去を引きずらないでいられるくらいには
施設での日々の暮らしが
本当に楽しいものだったのだろう。
ーもちろん、この底抜けの明るさは
彼の天性のものなのだろうが。
『でも...そんな、辛い思い出が一切ない俺と違って
はなは......地獄のような苦しみから逃れさせるために、施設に引き取られてきた子どもだったんだ。』
「.........それって...もしかして...」
『...うん。...簡単に言うと、虐待。
それも、聞くだけで
こっちまでおかしくなりそうなレベルのね』
「.........」
『まぁ、内容までは、さすがに
はなとめるちゃん両方のことを考えて話せないけど。
それに、俺も全部知ってるわけじゃないしね。』
「........」
『それで、はなは、そんな親に長い間...
10年近くも育てられて......
施設に引き取られた時には、
もう、身も心もボロボロだった。
身も心もボロボロなのに...四六時中ずーっと、
狂ったように明るい笑顔を振りまいてた。』
羊は1度深く息を吐くと、
苦しそうな顔をしながら話を続ける。
『当時本当にびっくりしたよ......。
身体中痣だらけでボロボロなのに
仮面を被っているみたいに、
ずーっとニコニコ笑ってるんだから。
きっとそれが、はななりの......
生き抜くための精一杯の術だったんだろうね。』
「......」
『そんなはなを、俺...見てられなくてさ...。
どうにか少しでもはなを楽にしたいと思って、
それで、めちゃくちゃ話しかけて
いろんなこと試して.....
それでやっと今くらいの関係にまで持ち上げたんだよ。
ここまでくるの、ほんと大変だったんだよ?』