Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
母さん、私は……何も、間違ってなかったんだね。
『エミリは、エミリが正しいと思う道を貫けばいいの』
涙を流し続けるエミリの小さな体を、優しく抱き締めるカルラ。その体温(そんざい)がエミリの心を癒していく。
『あなたは、とっても優しくて勇敢な子よ』
女の子とも、男の子とも言わない。
自分を自分として見てくれる母親の愛情が、涙が出るほどに心地よかった。
いつだって、どんな時だって、私は私だと受け入れてくれたのは……
どんな不安も、傷の痛みも、怖さも抱き締めてくれたのは……
『だから、ほら……エミリ、笑って?』
母さんだった。
『エミリ、来ては駄目よ!! 逃げなさい!!』
壁が破壊されたあの日も、同じ。
死の恐怖が目の前にあったにも関わらず、エミリが巨人の餌食になってはならないと、駆け寄る娘の姿を拒んでいた。
母さんは、最後まで命を賭して私たちのことを守ってくれた。
でも……
『………か、さん……わたし、どっ、すれば……』
まだ訓練兵だった頃、友人を傷つけてしまった時、再び自分を見失っていた。
友人に対する罪悪感と周りから与えられる冷たい視線に怯える日々。
いつもであれば、きっとカルラに抱き着いていたのだろう。
しかし、どんなに縋っても、涙を流しても、カルラが戻ってくることは、もうないのだ。
失くしたものに手を伸ばしても仕方がないことくらいわかっている。
それでも母親の姿を思い浮かべ、縋ってしまうのは、それだけ自分にとって、その存在が大きいものであることを物語っていた。
「……っ……おか、さんっ…………たすけ、て……」
ルルの声が、再びエミリの脳内に谺響する。
(…………おなじ、だ……)
ルルがどれだけ泣いても、呼んでも、彼女の母親はもうこの世にいない。
それでも、助けを求めてしまうルルの気持ちが、エミリには痛いほどに理解できた。
なら、そんなエミリがすべき事は何なのか。
瞼を持ち上げたエミリの視界に映ったものは、鋭く光る銀のナイフ。
(今度は、私が……)
痺れに震える手でそれを握り、全身に力を込めて立ち上がった。
(私がルルを抱き締める……!)