Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第22章 「母さん……」
帰宅後、ボロボロになったエミリとエレンの姿を目にしたカルラは、またケンカしたのかと二人を叱る。しかし、母親としての厳しい口調とは裏腹に、手当をするカルラの手は、とても優しいものだった。
先に手当を終え、ぐっすりとソファで眠っているエレンの隣で、エミリもまた傷の消毒を受けていた。
『ねぇ、母さん……わたしって、変?』
か細い声とそこから発せられた言葉は、エミリの心情をはっきりと表すものだった。
無表情な顔は、目が瞬きを繰り返しているだけ。いつもの明るい笑顔は、そこにはなかった。
そんな娘の様子にカルラは、切り傷ができたエミリの頬に優しく布を当て、問いかける。
『どうして、変だって思うの?』
『……みんなが、そう言うの。私は、女の子なのに……ぜんぜん、女の子らしくないって。男の子みたいで変って』
エミリとしては、ただ自分の感情や考えに素直に従っているだけのこと。
いけないと思ったことはやらないし、間違ったことをしている人がいたら全力で止めに行っているだけ。
エレンがいじめられていたら、姉としてただ弟を守っているだけだというのに、何故、それが可笑しいと言われるのだろうか。
女の子らしいって、何?
男の子みたいじゃ、変?
ずっと答えのない問題に追われているようで、自分というものがわからずにいた。
何が正しくて、何がいけないのか。
何故、変だと言われなければならないのか。
ありのままの自分って、何?
誰かを守るために拳を振るうのは、いけないこと?
そんな自問自答を繰り返し、どれほど経ったのかわからない。
誰に聞けば答えてくれるのだろうか。それとも、この質問自体がおかしいのか。
解けない問題に毎日ずっと、ひっそりと涙を流し続けていた。
『大丈夫』
しかし、その難問からもようやく解き放たれるようだ。
カルラから発せられた言葉が、エミリの心を解す。
『エミリは、変じゃない』
娘の頭を撫でる手が、とても優しくて、温かくて、安心する。
『エミリ、いつもありがとう。エレンを守ってくれて』
大好きな母の笑顔と共に送られる「ありがとう」の言葉に視界がぼやけた。
膝に落ちる涙。それが、今まで抱えていた痛みも一緒に流してくれる。