Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「あ、あの〜……」
騒ぐエミリに、店員が気まずそうに声をかける。そんな店員の様子に気づいたエミリは、静かに席に着いた。
「大盛りスパゲッティを時間内に完食できた人には、料金無料だけでなく、もう一つサービスをご用意しているのですが……」
「サービスですか?」
「はい。フルーツと生クリームたっぷりのタワーパンケーキをお召し上がり頂けます。如何がなさいますか?」
「食べます!!」
エミリは即答した。そんな彼女の瞳は大盛りスパゲッティを見た時よりもキラキラと輝いている。
店員はかしこまりましたとお辞儀をしてから、大皿を持って再び厨房に戻った。
「おい……お前、まだ食うつもりか」
流石のリヴァイも横から口出しした。あの大盛りスパゲッティだけでも十分な量なのに、まだ食べるというのか。
しかも、タワーパンケーキ。ということは、パンケーキ4、5枚で済む話じゃない。
「え、だってデザートは別腹じゃないですか」
「別腹の域を超えてるから言ってんだろうが……」
エミリはきょとんとした表情を浮かべる。彼女の満腹中枢はちゃんと機能しているのだろうか。それとも、これが元からある食欲なのだろうか。だとしたら、それもそれで異常だ。
「私、ちょっとお手洗い行ってきま〜す」
大盛りのスパゲッティを食べたせいか、トイレが行きたくなったエミリは席を立つ。
彼女が居なくなると一気に静かになった。残されたリヴァイ達は、暫く無言で料理を口にする。
「そ、それにしても、エミリ凄かったですね……」
この妙な空気に耐えかねたアンカが話を振った。流石にこんな状態で食事をしていても美味しくないと感じたからだ。
「そうだな。俺でも流石にあの量は無理だ。しかも、タワーパンケーキまで……」
同じく気まずさを感じていたグスタフも、アンカの話に同調する。
グスタフもまだ若い。普段はよく食べる方だが、エミリの食欲はそれを上回る。
食いしん坊でも見ていて微笑ましいものはあるが、正直あれはどう反応すれば良いかわからなかった。
「まあ、あれも今に始まったことじゃねぇけどなァ……」
そう言いながら、ハンネスはグラスに残っている酒を一気に飲み干し、ゆっくりと息を吐いた。