第27章 AS YOU LIKE IT/仗助
「ねえ、女性名さん…セックスって、どんな感じだったの」
なんのことはないように、由花子はつぶやき、その隣で、おれはおもわず飲んでいたグレープ味のパレードを吹き出した。
「そうね…特に変わったところは、なかったわ」
変わったところがないわけねーだろ!
つーかなんでおれがいるときにそんな話をするんだ!
と戸惑いながらも、おれもまた、なんとなく立ち去らないでいる。パレードを一気に傾けると、窓の外に高く、小鳥が翻って飛ぶのが見えた。それが過ぎ去ったあとの青い空。
「でも、すこしはドキドキしたり、ショックなことがあったりしたんじゃあないの?」
「いえね…よく、母親の胎内ではどの赤ちゃんも、はじめは女の子だっていうでしょう」
「ええ」
「わたしは男性の体を見て、やっぱり、おなじ生きものなんだって納得しただけだったのよ。色も…質感も…なにもかもおなじだった。ショックなほどの違和感はなかったどころか、安心したのよ」
確かに、それなら変わったところがあるわけないよな―――おれは口を拭きながらそうおもう。
「色と質感」―――形容はちがっても、おれとおなじそれが、女性名にあることを、つい想像してしまいつつ。
その毛穴のざらつきと、皺とが、黒い制服に偽装された命たちのなかで、不釣り合いな気配をもっていた。
「そう聞くと、確かに、緊張することでもないかもしれないわね…セックスってつまり、抱っこして、撫でてあげるってだけだもの、そうでしょ?」
見えないその気配に、しかし由花子はすんなり頷く。
答える代わりに女性名は微笑んだ。
「由花子さん、康一くんと手を繋いだことある?」
「ええ、あるわ」
「それならきっと、それ以上官能的なことって、あまりないかもね」
「それって…幸せかもね」
「そうね」
セックスはただの結果だ、と女性名の微笑みは語り、それが由花子をがっかりさせるのではなく、かえって気持を軽くしたようだった。