第4章 お狐さんと
「…なんだかすごく不思議な体験でしたね」
「全く、とんだ災難に遭ったよ」
本来の誉さんなら異世界へ行くなどなんて神秘的な体験だろうか!と詩を詠み出すだろうが、今の誉さんは少し不機嫌そうだ。ちらりと誉さんの顔を見やると、誉さんはじと目でこちらを見返した。
「まさか劇団員だけでなく神までを敵に回すなんてね」
「え…なんかごめんなさい…」
「謝る必要はないよ。まあキミが魅力的すぎるのは少し困りものだがね、いづみくん」
誉さんはそう言って頭を撫でたあと指を絡めた。デートで手を繋ぐことがほとんどない誉さんには珍しく、私はドキドキした。帰り道では会話は少なく誉さんは少しむくれていたけど、もしかしてやきもちを妬いてくれているのかなと思うと繋いだ手の温かさもあって気まずさは感じなかった。たとえ神隠しに遭おうとも、やっぱり私はこの人の元へ帰って来たいなと思うのであった。
fin