第4章 誓い
「……っ……。」
あぁ、そっか。そうだったのか。
私は、アヴェンジャーのことを、きっと、異性として意識し過ぎているんだ。アヴェンジャーは、あくまでも『サーヴァント』。もっと露骨な言い方をすれば、『使い魔』だ。人間のカタチをしているが、そもそも人間ですらない存在だ。私はそんなアヴェンジャーに、特定の異性に向けるような感情を抱いていたんだ。だから、こんなにも意識してしまうんだ。
気付いてしまえば、実に簡単だった。だからこそ、アヴェンジャーに手を取られただけで、あんなにも嬉しかったんだ。手袋越しじゃない、その手で触れてもらえたことが、嬉しかったんだ。私の頬に、アヴェンジャーの唇が触れただけで、魔術回路だけじゃない、体の奥が熱くなったんだ。
―――――私は、藤丸立香は。
―――――ひとりの異性として、巌窟王/エドモン・ダンテスのことが、好きなんだ。
こんな感情を、『サーヴァント』であるアヴェンジャーに抱くこと自体、間違っているし、ましてや口にするなんて、とんでもないことだ。それは、『マスター』と『サーヴァント』の関係を、明らかに超えてしまっている。この気持ちは、誰にも知られちゃいけない。きっと、アヴェンジャーだって、私がこんな気持ちでいると知れば、迷惑だろう。だから、私が責任を持って封じ込めておこう。
「……わかった。貴方の“マスター”として、応じます。」
うん、大丈夫。
アヴェンジャーは、私の両頬を、繊細な手つきで包んだ。私が少しでも抵抗すれば、簡単に拒否できるような、優しい手だった。
「……っ……。」
あと少しで唇が触れるというときになって、アヴェンジャーはふとわらった。
「……怖いか?」
怖くない。嘘。怖いです。アヴェンジャーにキスをされることが怖いんじゃない。今さっき、せっかく封じ込めた私の気持ちを抑え切れなくなることが、何よりも怖いです。でも、言えない。これだけは、言えない。
「……平気。」
「そうか。」
それだけ言うと、アヴェンジャーは、顔から笑みを消した。