第17章 第3部 Ⅲ ※R-18
「……梅毒、だろうな。」
低い声で、アヴェンジャーが呟いた。
「梅毒……?」
小さな声で、私はそれを口にする。確か、性病ではなかっただろうか? どこかで、耳にした気がする。
「古くから、世界中で分布している性病のひとつだ。現代の先進国では、治療すれば治る病気だが、昔は不治の病とされ、最終的には死に至る病とされていた。見たところ、彼女らは梅毒患者で、この棟に隔離されている……といったところだろう。」
「……酷い……。」
それにしたって、こんな場所に、それもすし詰めのようにされては、衛生的にも良くないだろう。
「見たところ、適切な治療が施されている様子もない。彼女らを待つのは、病による肉体の崩壊か、精神の破綻か、或いはその両方だろう。」
「そんな……。」
アヴェンジャーは、恐ろしげな内容を、淡々と口にした。およそ、その言葉に嘘は無いのだろう。でも、それにしたって、あんまりだ。
「此処に長くいれば、ああもなるだろう。マスター、次だ。」
アヴェンジャーに促され、別の部屋へと足を進める。何もできないのに、襖を開けて、中の様子をみてしまったという罪悪感に苛まれながら、私は薄く開けた襖を閉めた。
薄暗い廊下を進む。すると今度は、女性の短い悲鳴が、断続的に聞こえてきた。
「ここ……?」
今度は、軽い襖ではなく、木製の引き戸だった。こちらも、鍵らしきものは見当たらない。周囲の気配に気を配りながら、僅かな隙間から中の様子を窺う。
「やっちまいな。でも、顔は傷付けるんじゃないよ。コレでもまだ、商品価値があるんだから。」
顔中皺(しわ)だらけの女性が、男性に指示を出しているようだ。男性は、木の棒らしき物を持って、若い女性のお尻を叩いている。女性は、四つん這いになってお尻を高く上げるような格好だが、ほとんど何も身に纏っておらず、叩かれるたびに、短く悲鳴を上げている。あの女性は、どこかで見たような気がする。どこだったっけ……? 此処へ来てからのことを順に思い出す。……あぁ、そうだ。確かあの女性は、男性と一緒に、塀から外へ出ようとしていた人だった。確か、「お七」なんて呼ばれていた。木の棒を持っている男性は、どんどん興奮していっている様子で、その眼は血走っており、興奮を隠しきれない様子だった。いや、最初から隠すつもりすら無いのかもしれないが。
