第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『会ってんだ。』
『たまーに、ね。』
『それでいいのかよ?』
『たまに会うのって、いいわよー、
いつまでも新鮮で。』
『強がりにしか聞こえねぇけど?』
『あら、一静、案外、保守的?
いつも一緒にいたいタイプ?』
『普通はそうじゃねぇの?
あぁ、向こうには
一緒に過ごす家族がいるからか。
その人にとって、
うちは家族じゃねぇもんな。』
自分の言葉に刺がある自覚、あり。
だけど母は、照れもせず。
『だって、家族になれなくても、
一緒にいられなくてもいいくらい、
愛する人に出会えちゃったんだもの。
…普通の家族じゃなくて、ごめんね。』
『俺の知らない人のことだから、
謝られても困るけど。』
母親を傷つけてるだろうと思うのに
言葉は止まらなくて、なのに。
うふふ。
…ちょっとは凹むかと思った母は、
予想外に、嬉しそうに笑った。
『思春期だ~!一静、いつも冷静だから
思春期とか来るのかな?って
あんまりピンとこなかったんだけど。
やっぱ来るのね、母親に冷たくなる日!』
『…普通、そういうの、喜ぶ?』
『だって、たった1人の息子だもん。
全部、経験したいじゃない。
あの人に、次、会ったら、報告しよ。
"今、一静が思春期で冷たいの~"って。』
『勝手にすれば。』
鈍感なのか、凹まない人だ。
そういえば俺は
母親が取り乱すところとか、
怒る姿をほとんど見たことがない。
…俺がそれほど
迷惑かけてこなかったってことか?
『それより、俺、ホントに
進学していいんだよな?』
『もちろん。
東京でもアメリカでも
行きたいところに行って。』
『…その人、東京にいるんだ?』
一瞬の、間。
その空白が、逆に、事実を物語ってる。
『…日本にいる。日本人。』
動揺がダダモレの答えだな(笑)
『当たり前だろ。
母さん、英語喋れねぇんだし、
俺の顔、どう見たって、
アメリカ人の血、入ってねぇし。』
『一静、やっぱり頭いいわぁ。』
『…バカにしてんの?』
アハハ。
やっぱり一静、かわいい!
たこ焼きを前に、
くしゃっとした素顔で笑う母親を見て、
綾ちゃんを思い出した。
"高校生に比べたら紙クズみたいだから。
近くで素顔、見ないで。"
そう言っていたけど。
いいじゃん。
いろんなこと抱えてて、
強そうだけど、ホントはすごく女で。