第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
一瞬、シン、となってしまって、
途端に、自分の発言を後悔する。
ついほんのさっき、綾ちゃんに
"中途半端なことするな"って
言われたばっかりなのに…
感情に振り回されて
軽率な言葉を言ってしまった自分に
激しい自己嫌悪。
この空気、どう回収すんだよ…
すぐ謝って話題を変えるべきか?
と思うのに、言葉を選べないでいたら、
先に、母が口を開いた。
『"親"なんだから、うちの場合は
父親と母親、でしょ。』
あっさりと、むしろ、ニッコリと。
…今まで、
この手の話題は避けてきた。
だから、こんなにハッキリ言われると
どう返事していいかわからない。
『で?一静は、どこ受けるつもりなの?』
なんとも自然な流れで、
話題は進路の内容へと戻る。
『ホントに進学していいなら、
俺、資格取りたいんだけど。』
『…なんの?』
『医療、というか、福祉、というか。』
『堅実な進路、選ぶのねぇ。
体育系の大学行って
バレー続ける気はないんだ?』
『ないない。それはもう、趣味でいい。』
『…でももしかしたら、
バーンとJAPANを背負うスターとか、
めざせオリンピック的な才能がこれから…』
『花開くんじゃないかって?
いや、悪いけどそれはないな。
及川クラスのヤツラじゃねぇと。』
『そうなの~?残念だわぁ。』
…本気なのかふざけてるのか、
イマイチわからないこのボケた感じが
この人、男にモテるのかもしんねぇな。
と、俺は思ったのだけど。
母は、
ボケをかましたわけではないらしい。
『一静がバレーしてる姿、かっこいいし。
…テレビに写れば見てもらえるのになぁ。』
まさか、と、思うけど、一応、聞く。
『誰に?』
『あなたの父親。』
…これまでになくストレートな発言。
『生きてんだ?』
『生きてるわよ。
ちゃんと、一静の成長も報告してるし。』
…この話題、続けていいのだろうか?
『…どんな人?』
『ウフフ、いい男。』
『げ。息子に、ノロケてる?』
『だって、事実だもの。』
今までこの話題を避けていたのは、
もしかして、母さんじゃなく
俺の方だったのだろうか?
あまりに自然な流れで
サラッと会話が続いていくから、
敢えて避けるのも不自然な気がして。
たこ焼き食べながら普通に話す母親に、
俺も、さりげなく聞いてみる。