第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
ずーっと、すごく、愛されてる。
遠慮したら、母さんが悲しむ。
…多分、自分でもわかってたことなのに
こうして他の誰かに言ってもらえると
ホッとしてしまうのは、なんでだろう。
母さんの気持ち、
理解してるつもりなのに。
『ま、私もいっちゃんに
威張ったこと言えないわね。
私こそ、自分のこれからのこと、
そろそろ決めなくちゃ。』
笑いながら言う綾ちゃん。
…うち、出ていくんだろうか?
『いっちゃん、おかわりは?』
『いいや、もう腹一杯!
うまかった、ごちそうさま。』
『コーヒー、淹れるけど…
いっちゃんは何にする?』
綾ちゃんは、よく
食後にコーヒーを飲むんだけど
俺は、コーヒーは、どうも苦手。
『牛乳、ある?』
『(笑)あるよ。好きねぇ、牛乳。
こんなにでっかく育ったわけだわ!
コーヒー牛乳にする?』
『じゃ、牛乳多め、砂糖も少し、いい?』
『はーい。』
立ち上がって
コーヒーマシンをセットすると、
綾ちゃんは、食器を下げ始めた。
『あ、俺、やる。急に帰って来て
晩飯作ってもらったんだし。』
『そ?じゃ、二人でやろ。そしたら早い。
片付けてから、ゆっくりコーヒータイム。』
二人で食器を片付けていると、
綾ちゃんが、ポツリと言った。
『ね、いっちゃん、さっきの話だけど、』
『さっき、って?牛乳?』
『違う違う(笑)』
『あ、俺の進路か。
大丈夫、母さんにちゃんと話してみる。』
『そうじゃくて、』
…あと、何、話した?
『家族のこと?』
『違う。』
『なに?』
『"おばさん"。』
彼女が綾ちゃんのことを
何度も"おばさん"って呼んだこと?
…やっぱ、気にしてんのか…
『ごめん。明日、言っとくから。』
『ううん、違うの。
むしろ外では、おばさんって呼んで。
あたしも、いっちゃん、じゃなくて
一静、って呼ぶようにするから。
やっぱりそれが、自然だよね。』
なんで、急に?
相当、気にしてんのか?
『静といっちゃんに
久しぶりに会えたのが嬉しくて、
あたし、少し甘えてたのかなぁ。』
『それ、関係ある?』
…カチャカチャと、
食器を洗ってる綾ちゃん。
表情は見えないけど。
ハッキリ喋ってるのに、
なぜか、淋しそうな、声。