第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
走れるところは走ってきたからか、
思ってたより早く、家に着いた。
玄関のドアを開けようとして、
自分が息を切らしてることに気付く。
慌てて帰って来たと思われたら、
うまい言い訳が見つからない。
…というか、
なんでこんなに走ったのか、
自分でもよくわからないくらいだ。
家の前で息を落ち着かせ、
まるでいつもの学校帰りのように
カチャリと鍵を開けた。
『ただいまー。』
リビングをのぞくと、
ソファーに座ったまま振り向き、
息が止まりそうな顔で
こっちを見て驚いてる綾ちゃん。
『もう!泥棒かと思ってびっくりした!』
『鍵開けて入ってくるんだから、
俺か母さんしかいないだろ?』
『だって、二人ともこんな早くに
帰ってくるはずないと思ってたから…
そうよ、いっちゃん、彼女と夜遊びは?』
あぁ、俺は、
この人のこういうところが
すごく居心地がいいんだ、と思う。
"大人"が"子供"に対して
上から意見するんじゃなくて、
"人"対"人"として接してくれるとこ。
『あのさ、綾ちゃん、
高校生に"彼女と夜遊びは?"って、
普通、大人は言っちゃいけないだろ?』
『そう?
だって、昼間は学校なんだから、夜しか…
せっかくつきあってんのに、
学校じゃ出来ないこともあるでしょ?』
『何の話だよ(笑)』
『18歳はやりたいことがイッパイ、って話(笑)。
…で、なんで帰って来たのよ?ケンカ?』
『いや、違うけど。』
『何?H迫ったら断られた?』
『俺、そんなにがっついてない!』
『じゃぁ、どうして?』
『あのさ、』
言いたいことは、あった。
今、言わないと。
『アイツ、綾ちゃんのこと、
おばさんおばさんって何度も…
イヤな気分にさせたんじゃないかと思って。
ごめん。アイツ、悪気はないんだよ。』
『なぁんだ、そんなこと、わざわざ?』
綾ちゃんは、ケラケラ笑った。
『いいのよ、立派なおばさんなんだから。』
『…でも、
うちに来た日に言ってたじゃん。
おばさんって呼んだら
タダじゃおかないって…』
『そんなこと、言った?』
『言った言った。恐い顔して。』
『…そう?やぁね、あたし。
その悪あがきが既に若くないわよね。
世間的にみたら、
もう充分"おばちゃん"のくくりなのに。』