第3章 快復
所詮、どんなに綺麗事を並べ立てたところで、世の中お金だ。人間は水が無ければ生きていけない。しかし、その水すら、お金が無くては手に入らない。まぁ、雨水や川の水などは手に入るかもしれないが、飲むには決して適さない。息を吸うのだって、休むのだって、お金が必要なのが、この世の中だ。生存権だの、人権だのと、法律は嘯(うそぶ)き続けてはいるが、所詮は金が無ければどうしよもうないのが、この世の中。別に、それに文句があるわけじゃない。でも、欺瞞に塗れているとは思う。ただ、今その欺瞞について、あれやこれやと考えていても仕方がない。それなら、手っ取り早くお金を手に入れる方法を探さなくちゃいけない。今から職を探して真面目に働いたところで、もしかしたら間に合わないかもしれないし、この身体でどこまで無理がきくかも分からない。以前のように、しゃかりきになって、残業までこなす……なんていうのは、不可能だろう。それに、……、そう。私は学んだ。真面目に働いたところで、報われないのがこの世の中だということを。真面目こそが美徳だとか人は言うけれど、美徳が報われる社会なんて、とうの昔に崩壊していたのかもしれない。或いは、美徳が報われる社会なんて、それこそ元々から存在しなかったのかもしれない。ただ、そうであったらば美しいなどといった、根も葉もない大衆の夢想が、あたかも本当であるかのように、信じ込まされてきただけの話なのかもしれない。まぁ、今となってはどうでもいい話だ。とにかく今は、手っ取り早く、お金を手に入れることを優先しないと。それなら、最高に良い方法がある。セバスチャンのことだって、知りたいし。願ったり叶ったりの機会とも言えるかもしれない。
「セバスチャン……。ちょっと、相談があるんだけど……。」
私の胸は、興奮に弾んでいた。その高鳴りを抑えることもせずに、セバスチャンの近くで静かに囁いた。
「……、……できる?」
「えぇ。造作もありません。すぐにでも実行しますよ。」
自信がありそうな様子でそう頷くなり、カラス姿のセバスチャンは部屋を飛び出した。